店は日本海を望める高台で、でかい囲炉裏が中央に据えて在り、情緒が有る店内だった。
TVで一度こんな囲炉裏が有る店を見た事が有る、其れは東北地方で多くあると聞いていた。
「良い雰囲気やわ・・、夏は此れ使わんの・・」
「熱いゃろうが、お客が煙たがるしね、其処にほら小屋建ててな網戸を張り、風を通して
焼いているんやで、ここ等は谷間や・・」「谷間ですか・・」
「そうや観光も両隣には来られるが、この辺り素通りやさかい地元の連中の良い溜まり場」
笑いながらそう言われるが、その顔も美しかった。
「女将さんも飲もうや、俺は酒が弱いから飲むと直ぐに寝てしまうから、他所では用心
している」「弱いんは酒だけかね・・」「え、其処如何返事すればいいんか判らんが・・」
「だからさ、男だろうアソコやあ・そ・こ・」「あはっそう来るんや、其処程々かな・・」
「あんた粋だわ、ねね、菜摘如何や・・」「菜摘さんて何方・・」
「ええ、あんたを連れて来た女子やわ・・」「え、じゃ名前そう言われるんや、そうか話で
会った菜美さんは今回亡くなられた夫の奥さん・・」
「そうや私の姪っ子や、あんたを連れて来たんはその子の姉や」「じゃ女将さんとは・・」
「あそこの母親が私の母の妹や年は随分と離れているがね・・」そう話される。
「でな点かぬ事聞くけど、其の新婚さんの船の事や・・」
「ああ其処ね、あんた聞いて如何するん、よそ者じゃろうがね・・」
「気に為るがね、困った顔見ていると辛いが、美人顔には其処は似合わんが・・」
「く~益々粋じゃが、あんた名前は・・」「僕は山本光雄と言います。女将さんは名前とか
色々と聞きたいが・・」「なんとま~此処等に戯れる海男とえらい違うがね、益々良い男に
見えて来たわ」「其処飛ばそうや、ねね舟って新船じゃろう、幾らくらいするんかね・・」
「聞いて如何するん、あんたが其処肩代わりでもするとでも、そうじゃ無いなら聞くだけ
なら止しなさい、相手が可愛そうやしな・・」
「そうなりますね、でもそんでも聞きたいと言ったら」「あんた・・」「光雄ですけど」
「そう光雄さん、聴くだけなら聞かん方が良いよ」「一千万するんかね」「・・、・・」
「なな女将さん」「船だけならそうはしないけどな、魚群探知機や何かやで其れ位は懸る
だろうね・・」「じゃ、ここ等は総てそうなるんですか・・」
「此処は定置網が主や、でも其れでも子舟が必要やしね・・」
「そうなりますよね海の中だし、でその定置網に関わる人達は幾人居られるんです・・」
「え、あんた、其処迄聞いて来るんかね・・」
「袖すり合うのも何とかと世間では言いますからね・・」
「うふっ粋な男やわ・・、今は五人で懸ってるけどな其処も覇気が無いわ、網が古いから
手直しでも追い付かんほど破れて来ている」
「・・、そうなんですか、じゃ若者は此処等は出て行くか残るなら其れを・・」
「そうなるわな、ここ等じゃ商いなんぞ成り立たないわ・・」「・・」
「ささ飲もうや、私も後で通夜に向かうし・・」「飲めば僕は車が有る、これ以上は・・」
「酒が抜けるまで此処で休んでれば良い、今夜は店は開かれんし隣の座敷で寝ても良い」
「え・・何処に・・」「この先が座敷に為っているが、宴会に使うし団体さんも其処でや」
そんな話を聞いたら益々興味が湧いて来る、まるで持病の様に体がそうなって行く。
世間話を色々とする中・・、「あんた何で此処の事深く聞いて来るんね・・」
「其処な気に為っている、何とか上手い事出来んかと考えていたんや・・」
「何が上手い事や・・」「其処な船や、使う人が亡くなられたと聞いて後始末が如何か・・」
「其処は皆が悩んでるがね、今は其処が唯一悩みの種やわ・・」「何とか出来んかと・・」
「そうなるがね、如何する事も出来んと最後は其処に行き着くんやわ・・」
「ですよね、じゃ舟の解決が出来れば今は其れで皆さん安堵されるんですか・・」
「そりゃ~そうやわ、思っても誰も手出しできんしな、ぼやくだけだわさ・・」「・・」
そう言われつつ、酒を注がれて互いが飲み合う。
「お姉ちゃん・・、御免ね、あんた酒飲んだら車は駄目やわ、此処でも良いし里の家でも
良いから泊まって・・」「え~菜摘さん、其れ邪魔や今はそれどころじゃ無いじゃない、
僕の事は良いから気にせんといてや・・」
「・・、ま~あんた私の名前・・、あ・あ・お姉ちゃん教えたんか・・」
「阿保やな、あんた誰に此処まで連れて来てくれた、この人じゃないかお前は世間知らずや、
誰が送ると手を挙げたか聞きたいわ」「其処な、誰も行くと言われんでな悩んでいたんや」
「だろうがね、じゃ光雄さんを大事にしなさい・・」「え~お姉ちゃん名前呼んだ~・・」
「当り前だわ、名前が有ろうがね、あんたね人を使いながらそんな言い方は無いぞ、誰が
送ってくれる、魂胆が有れば別やけどな・・」
「え、あ・そうやね、あんた聞くけど魂胆ありかね・・」
「無いと言えば無いし、有ると言えば有りそうやわ・・」
「うげ~何~そんな言い方・・、もう驚くがね・・」
「阿保やな、世渡りが数枚上やわ、光雄さん・・」
「女将さん、菜摘さんも同じくらい美人やしな、気には為るぞ男だ・・」
「うふっ、良いわ本音が其処に在るならそんで良いがね、じゃあんた舟肩代わりすれば、
私ら大感謝するけどな・・」「・・、ええ・お姉ちゃん何その話・・」
「聞けや、今出る前に言って置きたい、光雄さん偉い船の金額を聞かれているんや・・」
「其れって行掛り上だけやで気に為る程度が薄いわ、一千万やで誰が手助けするんや組合
かて無理とはっきり言われているやんか・・」
「だから気に為る男が居れば、其処はこっっちが気に為ろうがね・・」
「だからって、世間はそうは甘くないわ・・」
「でも気にして頂くだけでもこっちは嬉しいわ」「そうだけどなな如何するん、船・・」
「其処や、葬式が終わればまず其処を解決せんとね、菜美が可愛そうや・・」
「駄目、じゃお姉ちゃん店閉めて行こう・・」
「其れがな閉められんぞ、この人座敷でも寝かせると思うけど・・」
「じゃ、店じゃ失礼や家に来て貰う、通夜は弟の家だから・・」
「そうやね、そうするかお母さんは・・」
「お姉ちゃんがそうすると聞いたら、反対どころか歓迎してくれるわ・・」
そんな話を光雄を置いて話されていた。
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